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2008年04月18日

80年代のバブルへの追憶

あの頃、街では前髪を立てたワンレンヘアーをなびかせながら、羽のような扇子をふりかざしてお立ち台で踊っている女が満ち満ちていた。一様にボディ・コンシャスに身を包み、ボディラインをびしっと強調させ、ひとしきり躍った後、長い髪をゴムで結んでラーメンをすすり、その足で外車に乗り夜の街へと溶けてゆく。
そのような時代が確かにあって、そんな頃おれはまだ学生だった、貧乏だった。バブル真っただ中といわれても、貧乏学生はその底辺で這いずり回っている。「自立」したかのように見える女たちは、バブル景気にまさにバブルな金をつかんだ男たちに群がっていた。おれもときに夜の街を徘徊し、せめてそのおこぼれでもと立ち回ってみるものの、残っていたのはトイレでアンパンやってラリった少女、くらいのものだ。
乾くるみのこの物語「イニシエーション・ラブ」はそんなバブルな頃のある男と合コンでしりあった女の恋愛小説。だがこの本を手にしたのは、小説の帯にある言葉だった。
――評判通りの仰天作。必ず二回読みたくなる小説などそうそうあるものじゃない。
乾くるみはもともとミステリー作家である、らしい。初めて読んだからよくは知らないけど、本当に二回読みたくなるのか? お手並み拝見といこう、というわけで読んでみたのだ。

この本の裏表紙に書いてある紹介文を引用してみる。
僕がマユに出会ったのは、代打で呼ばれた合コンの席。やがて僕らは恋に落ちて…。甘美で、ときにほろ苦い青春のひとときを瑞々しい筆致で描いた青春小説―と思いきや、最後から二行目(絶対に先に読まないで!)で、本書は全く違った物語に変貌する。「必ず二回読みたくなる」と絶賛された傑作ミステリー。

最後から二行に何やら仕掛けがあるらしい。あやしい小説だ。

そして各章につけられた章のタイトルが、これまた懐かしい。
『side-A』に分類された主人公の学生時代の物語に付与された1~6章の各タイトルは、揺れるまなざし/君は1000%/YES-NO/Lucky Chanceをもう一度/愛のメモリー/君だけにだ。メモリーをMB(メガバイト)やGB(ギガバイト)で数える世代には「何のこっちゃ?」かもしれないが、バブル期の貧富の差が今よりもずっと大きかった時代に最下層民たる青春を歩んだおれには、いたくノスタルジーをそそられるのである。
一方『side-B』の主人公が会社に入ってから(新入社員時代だ)の章には、木綿のハンカチーフ/DANCE/夏をあきらめて/心の色/ルビーの指環/SHOW ME。夏どころか人生をあきらめかけて、一人とぼとぼと高田馬場までの道を「曇りガラスの向こうは風の街~♪」などと鼻歌を呟きながら歩いたメモリーがある。

そんなノスタルジーに久しぶりに浸りながら読み進むうち、やがて件の最後の二行にさしかかった。ここについては読んでもらうしかないが、あえて表現するなら「!?」かシーッ もう一度始めから読めというのか? ここまで読んだおれを置き去りにするのか? あの時代、貧乏ゆえに社会に置いて行かれたおれは、いままた物語の世界でやっぱり置いてけぼりなのだ。
だからもう一度ノスタルジックな世界に入り込まねばならない。読んだ方がいいはずなのだ。一冊で二度楽しめる小説、というよりは二回読まないと「本当に」楽しむことはできない仕掛けなんだろう。
一度目に置いていかれた寂寥を、二度目で取り返さなくてはならない。だけれども、買ったまま積み上げてある、次なる本が催促している。二度目はもうしばらく後になりそうである。しばらくはおれを置き去りにしたバブルのノスタルジーを抱えたまま、積み上げてある本の山から、一番上の本を手にするとしよう。



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